大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成6年(ネ)303号 判決 1996年9月11日

大阪市住吉区長居東四丁目二一番六号

控訴人

サンケイサービス株式会社

右代表者代表取締役

喜夛幹夫

右訴訟代理人弁護士

山田庸男

鈴木敬一

吉田義弘

小泉伸夫

宮岡寛

李義

大阪府吹田市広芝町四番三二号

控訴人補助参加人

住宅開発株式会社

右代表者代表取締役

音納正一

右訴訟代理入弁護士

岡島成俊

石川県金沢市西泉四丁目六〇番地

被控訴人

株式会社シーピーユー

右代表者代表取締役

宮川昌江

右訴訟代理人弁護士

石田一則

主文

一  原判決主文第二項についての控訴に基づき、原判決主文第二項及び第三項を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し、金八七二万円及びこれに対する平成四年六月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審を通じ、これを二分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実及び理由

(以下、控訴人を「被告」、被控訴人を「原告」といい、その他の呼称、略称についても、原判決の例によることとする。)

第一  控訴の趣旨

一  原判決主文第二項を取り消す。

二  原判決主文第二項に係る原告の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも、原告の負担とする。

第二  事案の概要

次のとおり訂正するほか、原判決の事実及び理由中「第二 事案の概要」欄(三頁六行目から一二頁一一行目まで)に示されているとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四頁八行目の「PC-9800」を「PC-9801」に改める。

2  原判決五頁四行目の「(良太くん欄)」と「記載」の間に「の「目的」欄」を挿入する。

3  原判決六頁七行目の「作成し、これを」を削除する。

4  原判決六頁一〇行目の「原告プログラムの複製」を、「原告プログラムと被告プログラムの共通点と相違点」に改める。

5  原判決一一頁三行目の「、被告は」から八行目の「(甲三四)」までを削除する。

6  原判決一一頁九行目の「複製」を、「複写」に改める。

7  原判決一一頁一一行目の「被告の右行為」を、「被告プログラムを作成したり、情を知って販売すること」に改める。

8  原判決一二頁二行目の「二一条一項」を「二一条」に改める。

9  原判決一二頁一〇、一一行目を次のとおり改める。

「1 被告は原告プログラムを複製したか。

2 右1が認められる場合、被告が原告に対して負うべき損害賠償額。」

第三  争点に対する判断

次のとおり訂正するほか、原判決の事実及び理由中「第三 争点に対する判断」欄(一二頁一二行目から三二頁一一行目まで)に示されているとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一二頁一三行目の「争点1(被告の故意・過失)について」を、「争点1(原告プログラムの複製)について」に改める。

2  原判決一三頁三行目の「昭和六二年二月六日」を、「昭和六一年一二月一二日」に改める(これは、被告が当審において主張を訂正 したことによるものである。)。

3  原判決一三頁八、九行目の「被告プログラム」を、「原形プログラム」に改める。

4  原判決一四頁一行目の「昭和六二年三月ころまでに」、及び、同三行目の「そのころ」を、それぞれ削除する。

5  原判決一四頁六行目の「昭和六二年二月二八日ころ」を、「昭和六一年一二月一二日」に改める(この点も、被告が当審において主張を訂正したことによるものである。)。

6  原判決一四頁一二行目の次に行を変えて、「4 原形プログラムは原告プログラムのごく表面的な事項だけを改変したものにすぎない。山田は、表面的な改変程度のことであれば、既存ソフトを改変し得る知識能力を備えていた。」を追加する。

7  原判決一五頁一行目から一六頁七行目までを次のとおり改める。「次の諸事情を総合すると、被告は、原告プログラムをコピーして、これに若干の改変を加えて、被告プログラムを作成したものであるということができる。

<1>  原告プログラムは被告プログラムに先行している。

<2>  被告プログラムの内容は原告プログラムと酷似している。

<3>  被告は、被告プログラムに「サンケイキャド」という商品名を付して、これを自社製品として販売している。

<4>  原告は原告プログラムを関西地域においても販売していたので、被告は容易に原告プログラムを入手し得たものである。入手経路としては、アーバンソフト若しくはその代表取締役である山田から入手したということも考えられる。」

8  原判決一六頁一一行目から一七頁三行目までを削除する。

9  原判決一七頁一〇行目から二二頁七行目までを次のとおり改める。

「1 被告プログラムが原告プログラムの複製品にほかならず、

しかも、その類似性が極めて高いものであることは、前示のとおりである。

2 被告は、「昭和六一年一二月一二日、アーバンソフトの代表者山田による、同社が開発したものであるとの触れ込みを信じ、原形プログラムの販売権を一五〇万円で購入したものである、被告としては、その際、原形プログラムが原告プログラムに類似していることを認識しておらず、認識する可能性もなかった。」旨の主張をしている。

しかしながら、まず、右類似性の点に関していえば、<1>前示のとおり、被告プログラムは原告プログラムが公にされ一般に販売されるようになってからかなり経過してから売り出されたものであることからすると、被告が被告プログラムを作成、販売するまでの間に原告プログラムの存在とその内容ないし性能を知っていた可能性は十分にあることは否定できないこと、<2>また、被告のような業者が、その営業の一貫として被告プログラムのようなコンピュータープログラムの作成、販売を企画する場合には、それに先立ち、一応なりとも、自ら作成、販売しようとしている製品と類似する既存商品の有無ないしその市場における需要度等を調査、検討するのが通例であると考えられることに照らすと、原告プログラムの存在すら知らず、類似性の認識ないしその可能性すらなかったかのようにいう被告の右類似性に関する主張やこれに沿う原審証人成田の証言はたやすく採用できない。

また、原形プログラムはアーバンソフトが開発したものであるとの言を信じたとの点についても、<1>成田は、被告の従業員として、被告プログラムの作成、販売に関してはほとんど全面的にまかされてこれを担当していたものであるところ(原審証人成田、当審における被告代表者本人尋問の結果)、山田との交渉に当たったという成田自身、山田はアーバンソフトでコンピューターのソフトの開発を担当していたものであり、コンピュータープログラムの開発の専門家というふうに理解していたとはいうものの、その技術や知識については一応ソフトの分かる人間と思っていたというにとどまるのであって、真実、山田に原形プログラムを独自に開発する能力があると信じていたかどうかは疑問であること(原審証人成田、弁論の全趣旨)、<2>また、もし、原形プログラムをアーバンソフトないし山田自身が独自に開発したか、あるいはアーバンソフトないし山田が第三者に委託して開発したとすれば、前示のとおり、これと同一性の認められる原告プログラムが約二二か月の期間と、およそ五〇〇〇万円の費用を投じて開発されたということからすると、たとえ被告が主張し、また、原審証人成田が証言するとおり原形プログラムを基にした被告プログラムの販売が三〇本を超えた時点で改めてアーバンソフトとの間でロイヤルティ契約を締結するとの約定があったという前提に立ったとしても、一五〇万円という金額はいかにも安いとの感を免れず、この点からしても山田のいう独自開発の説明には当然疑問が生じたはずであると考えられることに照らせば、独自に開発したとの、山田の説明を信じたという被告の右主張及び原審証人成田の証言は採ることができないと言わなければならない。

さらに、被告のいう一五〇万円の支払いに関しても、前示のとおり、当審において、その支払期日が訂正されるに至っているところ、右代金の支払いについては、元帳、振替伝票などの原簿に記帳がなく(当審証人森徳久)、被告の帳簿上はその支払手段すら明らかでないこと、被告は、三和銀行との銀行取引に関する「普通預金入金帳」(乙一〇の3)の昭和六一年一二月一二日の欄に「三葉」からの入金として一一〇万円という金額が記入されている点を挙げて、これは、本来、三葉からの二六〇万円の入金とアーバンソフトに対する一五〇万円の支払とがともに記帳されなければならないところ、差額の一一〇万円だけが、三葉からの入金として記帳されたものである旨説明するが、そのような会計処理が実際に行われたとすれば収入と支払の区別を無視するものであって、通常あり得ない会計処理であると言わざるを得ないこと、原形プログラムの販売権の購入代金の領収書であるとして提出されている乙第五号証も、その記載内容からみて、それ自体で、被告のいう売買契約締結の事実を裏付けるに十分なものではないことに照らすと、被告の前記購入に関する主張についても、右契約の存否ないし内容に関し疑問の残ることは否定できないというべきである。

3 以上にみてきたとおり、被告プログラムは原告プログラムと類似性が極めて高く、酷似しているといえるものであるところ、このようなコンピュータープログラムの性質上その作成に当たり偶然に類似品が出来上がるということはほとんど想定し難いものであること、被告プログラムは、原告プログラム発売後の後発ソフトであること、被告プログラムの作成、販売に関する被告の主張には前記のとおりにわかに採用し難いものがあることなどを総合考慮し、弁論の全趣旨に照らすと、被告プログラムが被告の関与の下に作成されたものであることは明らかなところ、被告は、右作成の際、被告プログラムが原告プログラムの複製品にほかならぬことを認識していたか、仮に原告プログラムと特定して認識していなかったとしても、少なくとも、被告プログラムが既存プログラムを複製することによって、作成されたものであることは十分に認識していたと推認せざるを得ないというべきである。

10  原判決二三頁一行目の「年間平均販売枚数」を、「年間平均販売本数」に改める。

11  原判決二六頁七行目の「昭和六三年には」を、「翌年の昭和六三年には」に改める。

12  原判決二六頁九行目から一〇行目の「認められるが」を「認められる。」に改め、その後に左記の部分を加える。

「そして、証拠(甲五の3、六の2、八ないし一一の各2、一三の1、2、証人成田)によれば、株式会社矢野経済研究所発行の「パソコンCAD使用の実態と今後の展望」と題する書籍には、被告プログラムについて、発売時期一九八七年一二月、累計出荷本数二〇〇本と記載されていること、被告は、被告プログラムの発売後、その講習会を開催したり、これを「日経CG別冊パソコンCADガイドブック(日経BP社発行)」一九八八年版、一九九〇年版、「PC-9800アプリケーション百科(監修/日本電気株式会社)」一九八九年版、一九九一年版、「PC-9800シリーズアプリケーション情報(日本電気株式会社)」一九九一年春号、秋冬号、一九九二年春夏号に宣伝広告するなど、被告プログラムについて相応の宣伝広告活動を行っていること、被告プログラムの価格は一本五万円であり、設計図等の作図機能を有するキャドソフトとしては破格に安価であることが認められ、これらの事実に照らすと、被告プログラムの発売が、昭和六三年以降の原告プログラムの売上げ減少の原因になっていることは否定できないと認めるのが相当である。

(二) 被告は、前記書籍に記載されている被告プログラムの出荷本数は営業上の理由から多目に回答した数字がそのまま記載されているにすぎず、被告プログラムの実際の販売数量は、「サンケイキャド販売実績」と題する書面(乙八)に記載されている八本にすぎない旨主張し、原審証人成田も、右主張に沿う趣旨の証言をしている。

そして、被告は、これらの裏付証拠として、当審において、昭和六二年三月一日から平成五年三月三一日までの間の、決算報告書、元帳、振替伝票などを提出している。たしかに、累計出荷本数等に関する情報誌からの照会に対して回答するに当たっては、営業上の理由により、多目に回答するということは十分に考えられるので、右書籍に記載された累計本数をもって、直ちに実際の被告プログラムの販売数量とするのは相当ではないというべきであろう。しかし、被告が当審において提出した右決算報告書等にしても全期間にわたり振替伝票が揃っているわけではなく、一般に被告プログラムのような商品を新しく売り出す場合には、相応の数量の商品を準備して販売に入るのが通例と考えられることや前示のような被告の宣伝広告活動を考慮に入れると、実際に売れた被告プログラムの数が僅かに八本というのはいかにも少なくにわかに首肯し難い数字であるといわざるをえず、右の点に関する被告の主張、立証を参酌しても、被告プログラムの発売が前示原告プログラムの売上げ減少の要因になっていることは否定できないと認めるのが相当である。」

13  原判決二七頁一行目の「甲五の3」を、「証人成田」に改める。

14  原判決二七頁六行目から二九頁六行目までを次のとおり改める。

「(三)前記(一)の認定事実によれば、昭和六三年から平成三年までの間の原告プログラムの販売減は年間平均八二本であるところ、前記(一)(二)にみたとおり、被告プログラムの販売が右原告プログラムの販売減の要因になっていると認められるが、さりとて、右販売減の全てが被告プログラムの販売によるものとはいえないこと、及び、損害の算定に当たって不確実な要素があるときはできるだけ控え目で確実な範囲で損害額を算定するのが相当と考えられることを総合考慮すると、本件の場合、右年間平均減少分のうち、被告による著作権侵害行為と相当因果関係のあるのは、年間、その約三割に相当する二五本であると認めるのが相当である。

15  原判決二九頁七行目の「(二)」を「(四)」に、同三〇頁三行目の「乙八、三四」を「甲三四」にそれぞれ改める

16  原判決三一頁一行目の「次式のとおり九四〇万八〇〇〇円」を「別紙計算式のとおり六七二万円」と改める。

17  原判決三一頁二行目から四行目までを削除する。

第四  よって、本件控訴は一部理由があるので、原判決を主文記載のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上野茂 裁判官 高山浩平 裁判官竹原俊一は転補につき署名捺印することができない。 裁判長裁判官 上野茂)

計算式

卸売分 ¥168,000×0.3(利益率)×25本×4年÷2=¥2,520,000

直販分 280,000円×0.3(利益率)×25本×4年÷2=¥4,200,000

合計 ¥2,520,000+¥4,200,000=¥6,720,000

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例